「ごまかし勉強」

「ごまかし勉強」とは、主に中・高校生が定期テストの点数を上げることを目的に、他人に作ってもらった(ひどいときには教師から渡された)暗記用「カンニングペーパー」をひたすら覚えて当座をしのぎ、テストが終わるときれいさっぱり忘れてしまうような勉強のことを指しています。
そして、問題なのは、これが教師、塾、教材会社、保護者などの関係者によってシステムとして維持されていることです。どこが出発点なのかわかりませんが、簡単に流れを作ると次のようになります。
★「考える力」を引き出したいと考える教師でも、それを図るテスト問題を作るのは非常に大変。しかも、定期テストの結果は、「内申点」の基礎になるので、どうしても無難な「客観性のある」テストを作らざるをえない。また、平均点が高くても低くても教師の評価が下がるという現実には抗いえない。そこで、ある程度の結果を出したい教師からは定期テストの範囲が指定され、露骨に「これを覚えておけば点数が取れるよ」というアドバイスがある。しかも、テストはほとんどが教科書そのままの穴埋め問題など覚えておけば点の取れるものに限定されます。(背景として、教える内容=教科書の中味が70年代などと比べて大幅に減ったということがあります。だから、暗記する必要のある項目も少なくなっています)
★意義の感じられない勉強から逃れたいが、よい成績だけは欲しい学習者は考えることをやめ、テストに出そうな問題とその答えだけを丸暗記します。
★一方、塾や教材会社からは定期試験対策向け「要点集」「暗記教材」「予想問題」が渡され、学習者はこれを考えずに暗記すればよいようになっています(ネットで検索すると範囲を指定すれば予想問題が出てくるサイトが見つかります)。*こういう「対策」をやってくれる塾が「いい塾」だと評価されます。
★保護者も、定期テストの結果が内申点につながること「だけ」は知っていて、なんとか定期テストでいい点を取らせようと、「いい塾」に通わせ、「いい教材会社」からトレーニング用教材を買います。
★他方、教材会社は「忙しい」先生向けに「テスト作成はこちらに任せて、先生はもっと大事な授業の準備に専念してください」という甘い言葉をささやき、これに乗せられた教師は教材会社がつくった試験を使うようになり、結果的に教材会社が試験問題と予想問題をつくることになります。
★こうしたテストを受けてそこそこ良い点が取れた学習者は、自分の頭で考えて要点を整理して覚え、他の学習事項との関連などを考えるというような「正統派」の学習方略は捨てて(思いつきもしない)、丸暗記、結果がすべて、勉強とは予想問題と答えを覚える手続きだという不幸な学習観を持ち、ますます授業がつまらなくなり、勉強がきらいになります。

→ここからはまた最初に戻ります。勉強がきらいでやりたがらない学習者にもある程度の点を取ってもらわなければならない現実があるので、教師は妥協して、そういう学習者でも点の取れるテストを作ります。そして、今は高校も大学も昔に比べてはるかに「広き門」で、こういう勉強を続けてきた学習者でも入れる可能性は高くなります。
こういうスパイラルに嵌ってしまっては、なかなか抜け出すことができません。
もちろん、「ごまかし勉強」では、テスト範囲の広い入試問題に太刀打ちできないと気が付いて「正統派」の学習に切り替える人もいるでしょうし、大学に入ってから(入れてしまってから)そんな勉強方法ではついていけないとわかる人も多いでしょう。でも、それまでに費やしたエネルギーは無駄になります。だったら、初めから「正統派」の学習方法を取らせるほうがよほど子ども思いです。

この本が出版されたのが2002年です。そこから10年たって状況は改善されたのでしょうか?残念ながらあまりいい話は聞きません。むしろ、がんじがらめに管理され、疲れ切って病んでしまう先生の話が増えているような気がします。最近の大学生や新入社員の「指示待ち」「マニュアルがないと何もできない」話もこれでもかというくらいマスコミに取り上げられています。
著者は、25年間、学習塾で授業や認知カウンセリングを実施してきた経験から書いていますので、説得力があります。また、本書で解明されている、旺文社の参考書の内容を70年代と90年代で比較したデータは、学生の勉強方法の変化をよく示していると思います。
この本が絶版になっていないことから判断すると、このままではいけないという心ある人がこの本を手に取って考えていてくれているということになります。そう期待したいです。特に学校の先生には読んでほしいと思います。

ごまかし勉強〈上〉学力低下を助長するシステム

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ごまかし勉強〈下〉ほんものの学力を求めて

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