パトリシア・コーンウェル「痕跡」

久しぶりに、コーンウェルの検視官スカーペッタ作品を読んだ。もう8年も遠ざかっていたことになる。これ以前のものは、毎年、出るのを楽しみにして出るとすぐに買って読んでいた。
このへんの作品をアマゾンで探してみると、レビューに酷評がずらずらと出てくる。でも、読んでみるとそれほどでもないじゃん??と思う。
確かに、この前の作品「黒蠅」で、シリーズは方向転換をした。以前はスカーペッタの一人称で語られていたものが三人称になった。これは、以前の作品が主にスカーペッタの活躍を中心に描いていたのに対して、このあたりから、スカーペッタと姪のルーシーなど他の人物がそれぞれに物語の大きな比重を持ってくるようになったことに対応しているのだと思われる。
だから、「黒蠅」以前と以降で、別のシリーズととらえればそれほど不自然ではない。確かに、初期の作品は、スカーペッタが検視という「作業」を通じて、物を語らない死者から手がかりを見つけ出し、しかも彼女自身が巨悪と闘いあわや殺されかけるなどという、読んでいて胃が痛くなるようなハラハラ感を感じさせてくれるものが多かった。この「痕跡」には、検視の場面はあまり出てこない。犯人も「小物」である。でも、巧妙にプロットが積み重ねられ、最後には一つに結び付いていく、その過程はやはり見事だと思う。

痕跡 (上) (講談社文庫)

痕跡 (上) (講談社文庫)