「一旦(いったん)」の使い方

以下の文書は、ある企業の環境基本政策からとったものです。
1 温室効果ガス総量削減計画
○省エネ対策(略)
○CO2排出係数改善(略)
カーボンオフセット
排出権によるカーボンオフセットによりCO2を削減します(一旦、5.4%(6988t)のCO2削減を見込みます)
(この付属文書に書かれているのは、カーボンオフセットによりCO2を削減し、上の省エネ対策をすすめ、CO2排出係数の改善がなされてもなお目標に達しない場合には、さらにカーボンオフセットによりCO2を削減するというものです。)

ここで問題にしたいのは、「一旦、」という言葉の使い方です。この企業に問い合わせを出したのですが、なしのつぶてなのでここで意見を述べます。

明鏡国語辞典では、最初の語義として以下のように説明しています。

物事の進行や行為を一時的に中断するさま。普通、再開するという含みでいう。いちど。ひとまず。(例文)「いったん家に戻って出直そう」

この例文では、「いったん家に戻る」「その後、出直す」ということです。
広辞苑にも例文がありますが、
「いったん休憩にします」というのは
「いったん休憩にします。その後、仕事を再開します」ということが「暗黙の了解」となっているので、不自然ではありません。
今回問題になっている
「一旦、5.4%のCO2削減を見込みます」という文は、おそらく、書いた方の頭の中では、「一旦、5.4%のCO2削減を見込みます。(そして、他の二つの対策で削減目標に達しない場合はさらに削減をおこないます。)」の(  )内のような文章が「暗黙の了解」になっているのだと思います。でも、読み手の側には、そのような「暗黙の了解」がないため、「一旦、5.4%のCO2削減を見込みます」だけ書かれていると、その後どうなるのだろう?と不安になり違和感が発生するのです。この文章の下の小さな文字を読んではじめて「一旦」のもつ含みにたどりつけるわけです。

こうした違和感を発生させないためには、
1「暗黙の了解」の部分をわかる形で、フルセンテンスで書く。
「いったん、5.4%のCO2削減を見込みます。そして、他の二つの対策で削減目標に達しない場合はさらに削減をおこないます。」
2「いったん」を使わずに書く。たとえば、
「5.4%のCO2削減を見込みます。ただし、他の二つの対策で削減目標に達しない場合はさらに削減をおこないます。」
などとするとすっきりすると思います。