「入管戦記」

当時、東京入国管理局長だった著者が、入管をめぐる様々な問題について語った書である。
日本語学校を「隠れ蓑」にして日本での不法労働者を斡旋するブローカーの摘発、「興業」ビザで入国したダンサーたちがホステスとして働かされていたフィリピンパブでの摘発など、それまで闇に包まれていた部分に「斬りこんだ」描写は、現役の役人にしか書けない内容で興味深い。
また、北朝鮮に拉致された被害者と同様、北朝鮮に「扇動」されて帰国運動で北に渡った在日朝鮮人とその日本人家族も、北朝鮮で差別を受け危機的な生活を強いられているという点では国家的な拉致ともいうべきもので、希望すれば日本に帰国できるようにすべきという提案もうなずける。
著者は、在日韓国・朝鮮人の待遇の向上を一貫して主張してきた。そして、それは在日韓国・朝鮮人に「特別永住者」という「外国人の地位としては最高の法的地位」が与えられたことと、特別在住者に対する指紋押捺制度の廃止などで、実を結んだと述べている。
ただし、著者がここで「出入国管理行政上は、在日韓国・朝鮮人に関する大きな政策課題と呼べるものはもはやなくなった」と述べていることからわかるように、役人である著者は、制度的に「在日」の人たちの地位が向上すればそれでよし、としているように感じられる。だが、制度上彼らの立場が安定したといっても、彼らに対する「日本人」の差別や偏見といった問題は一気に解消に向かうとは思えない。
とはいえ、今まで考えたことのなかった「入管」「外国人との共生」という問題へ目を向けさせてくれたことに対しては感謝したい。

入管戦記

入管戦記