「学ぶ意欲の心理学」

市川先生の著作で特に学ぶ意欲についてまとめて述べた本です。
動機付けについて、心理学の考え方の整理と、精神科医和田秀樹氏、教育社会学者・苅谷剛彦氏との討論が収録されています。
この討論という手法は実に有効で、意見の違う人との話の中で、違う視点が出されたり、実はこういうことがわかっていなかったんだということが見えてきたりします。
教育の中でいくつか、ともするとはまってしまいそうな点が提示されています。たとえば、
・児童中心的な教育ということで、表面的にとらえると、その場だけで一見、おもしろくて楽しい学習だけを求めてしまう。
・教室の中で話し合いながら答えを練り上げていく授業。よく理想の授業と考えられるが、実際にその流れについていけない子どもたちにとっては苦痛でしかない。
・知識よりも考えることだ(実はこれは間違い)というスローガンが先行し、「教え込みはよくない」が始まり、予備知識もないまま「さあ、みなさん、考えましょう」と言っても、ただ考えを述べ合うだけの授業になってしまって、力はほとんどつかない。
人は本来、内発的に学びたいという意欲を持っていることには信頼を置きたいと思います。ただ、すべてを学習者任せにして何の統制もしないというのは、教育者の責任放棄であり、外発的動機も内発的動機もうまくコントロールしながら学習者の学びをサポートしていくのが教育に携わる者の本来の役割なのでしょう。

学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)

学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)