敬語再入門

今通っている講座の中の1テーマに「敬語」があり、日ごろ、敬語の使い方に慣れていない引け目を感じている私は、すがる思いでこの本を手に取りました。
実は、2007年に文化審議会から「敬語の指針」という文書も出され、これまでの3分類から5分類へと変わったというのは聞いていたのですが、その詳細についても知りませんでした。
この本の著者の菊地さんは言語学者で、敬語を学問的に研究されてきた方です。そして、上記の「指針」の作成メンバーの一人でもあります。ですから、言語学での学問的な研究成果とその帰結としての分類変更についても詳しく書かれており、また、この本の記述と「指針」での記述の整合性についても触れられています。
Q&A100項目と「敬語腕だめし」「敬語ミニ辞典」という構成で、文庫本という限られた紙面でコンパクトにわかりやすくまとまっています。
学者の書いた本ということで、グレーゾーンは許さず白黒はっきりさせるというのを想像される方もいらっしゃると思いますが、菊地先生のスタンスはもう少し柔軟です。規範としてこれまでは間違いとされてきたが、いまや市民権を得ていて間違いでなくなる日も来るだろう、という記述もあります。他人の敬語の使い方にもある程度寛容になることもすすめています。その意味では、好感の持てる内容です。
とはいえ、明らかに間違っているものは間違いと、学問的な裏付けを持って指摘しているのも事実です。
・ローンもご利用できます。
特急券のない方はご乗車できません。
(「来週なら皆様をご招待できます」は謙譲語1の可能表現の正しい例)
・まず隣の窓口で申し込み用紙をいただいてください
・そして、その紙にご記入してから
・こちらの窓口にお出ししてください。
(これら3点は、謙譲語を尊敬語のように使う誤り)
また、おそらく多くの方が便利に使ってしまう「させていただく」の適切な使用例と過剰な敬語表現の例、この表現が急速に広まりつつある背景なども詳しく説明されています。
単なる敬語のハウツー本は世にあふれていますが、根本に立ち返って、敬語とは何か、敬語はどうやって作られどう機能するのか、という思想的なバックボーンを提供してくれるこの本は、価値ある一冊です。

敬語再入門 (講談社学術文庫)

敬語再入門 (講談社学術文庫)