男子の本懐

解説に「城山文学の頂点を示す名作」とある。
今まで機会がなくて城山三郎の作品を読む機会がなかったが、正直言って名作だと思う。
昭和5年の金解禁(金本位制への復帰)を断固としてやり遂げた、そして、この政策にまさに命をかけた二人の男(浜口、井上)の物語である。
大学入試で日本史をとらなかったので、昭和のこの時期の歴史についてはほぼ無知だった。まだ軍部が独断で戦争に突き進む少し前の時代で、曲がりなりにも政党政治が機能していたころだ。
金解禁については、その是非を論じる根拠を持たないので、正しいとか間違っていたとかここでは触れない。この作品の眼目は、二人の政治家の「生き方」そのものである。
解説で、毎日新聞論説委員長(当時)の赤松氏は
「ひるがえって今日の政界の実情を見ると、浜口、井上のような信念の政治家は姿を消し、場当たり的で保身のため困難な課題を回避する逃げの姿勢だけが目につく。」
と書いている。昭和58年のことだ。
これは、平成に変わった現在の自民党公明党--それにとってかわった民主党の政治家にまさにあてはまる。だから、橋本大阪市長のような「信念」を持っていると一見見える独裁者に人気が集まるのだろう。

男子の本懐 (新潮文庫)

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