「ネイティブスピーカーの単語力 3 形容詞の感覚」

大西先生のネィティブスピーカーシリーズの1冊。この本は、様々な形容詞をとりあげて、それぞれがどんな感触を持っているのかを解説したもの。大西先生とポール・マクベイ氏による「労作」だ。最初の章は「あかるい」で、light,bright,brilliant,glitteringなどの「あかるい」のイメージをお二人の感覚で説明している。似たような試みは、類語使い分け辞典、Longman Activatorなどでもなされているが、感触のレベルまで掘り下げていこうというものは他にないように思う。Activatorもたまに見るが、同じような意味範疇の単語が並んでいてそれぞれの意味と例文が並んでいるが、違う単語にもほぼ同じ語義がついていたりして、しっくりこない場面も多い。その意味では、この本は「画期的」といえる試みと言える。
一読して感じるのは、今まで覚えてきた単語だけでは、ある事象を形容しようとするとき、あまりに表現力が不足しているということだ。本来は豊かな使い分けが可能な場面で、いちばんやさしい言葉だけで表現していたのでは、単純なことしか表現できない。
その意味では、この本は初級学習者向けではない。初級を越えて、本来ぴったりくる表現を求める人に存在価値を発揮する。

あと、コロケーションについても考えさせられる。最近は大規模なコーパスを使ったコロケーションの例示も多くの辞書で普通になった。だが、コーパスというのは、誰かが言った、書いた、という「事実」を集めたもので、誰が、どんな文脈で、どういう気持ちを込めて言った(書いた)のかはわからない。だから、コーパスからコロケーションを引っ張ってくるだけでは、人間の感情のレベルでの使い方は見えてこない。辞書のコロケーションの例をそのまま使えば、「まあ、間違いではないだろう」というレベルの文章は書けるが、それだけでは本来自分の伝えたい内容が伝えられるわけではない。それぞれの形容詞や動詞の持つ感触をつかんで、それが自分の伝えたい感触とあっているかどうかを検証しながら書く作業となる。

英語も生身の人間の心を伝える道具である。世界標準語としての英語は、記号のようなものであっても仕方ない(このことに異論を唱えるつもりはない)が、本気の英語で書かれた作品を味わったり話したりするためには、このレベルの「単語力」が必要だという、一つのアンチテーゼでもある。

ネイティブスピーカーの単語力〈3〉形容詞の感覚 (Native speaker series)

ネイティブスピーカーの単語力〈3〉形容詞の感覚 (Native speaker series)