新装増補版「自動車絶望工場」

鎌田氏が半年にわたりトヨタの組み立て工場で「期間工」として働いた時の記録を本にまとめたものです。最初に出版されたのが1973年、ほぼ40年前。それ以来、広く読み継がれてきた本です。
なんといっても、現場の描写がなまなましい。当然です。実際に働いていたのですから。コンベア労働がいかに非人間的なものであるか、そして、トヨタがいかに労働密度を上げて剰余価値を搾取しているのかがよくわかります。
私も、もっと単純なコンベア労働を体験したことがありますが、そこでも「オーダーピッチ」という数字でいかに速くラインを流せているかが一目瞭然の世界でした。私がいた場所は「良心的な」職場だったので、誰かが遅れてラインが止まっても遅れを取り戻すために残業するということはなく、その分は夜間のラインに回っていましたが、トヨタの場合、遅れればその分残業して決まった数をこなすという厳しいもの。それだけに各人の疲労度も高いと想像できます。
これは40年前の世界か?というと今でも体質は変わっていない、ということが「増補」の部分で触れられています。そして、昔は条件の悪かった「期間工」の下に、今では「派遣」労働者や外国人の「研修生」(という名の低賃金労働者)がいて、生産量の増減のための調整弁になっています。
また、このIT社会になぜ機械化を進めないのかという疑問も残りますが、本書の中で鎌田氏は、機械を入れるより人間を使い捨てる方が安くつくなら機械は入れない、と経営者の論理を指摘しています。なるほどです。実際には、やはりロボットが昔より多く導入されているようですが、危険で大変な仕事をロボットにやらせようという発想ではなく、ロボットの速さに合わせるように人間は動け、という論理です。
40年前はインターネットもなく、本という形でしか実態を明らかにできなかったわけですが、今は、ネットワークの時代、もっともっと多くの底辺で働く人々の実態がネットなどで伝わってきたらいいのに、と思うのですが、やはり、コンベアで働く人たちは疲れ切って実態を発信するどころではないのでしょうか?派遣切りが問題になってすぐのころは、NHKスペシャルなどで派遣労働(不安定低賃金労働)の実態解明をやっていましたが、もっともっとやるべきだと思います。

新装増補版 自動車絶望工場 (講談社文庫)

新装増補版 自動車絶望工場 (講談社文庫)